〈読書日記〉『針子の乙女2』ゼロキ
タイトル 針子の乙女
著者 ゼロキ
イラスト 竹岡美穂
〈あらすじ〉
国布守様を呪いから救うため、ユイとアージットの二人はメネスメトロという街へ引っ越すことに。その街にある迷宮での修行と、呪いに有効な風属性の武器や風精霊の守護者を見つけるのが目的だ。そしてアージットは彼の友人であり風精霊の守護を受けている冒険者シュネルを連れてくる。元貴族でありながらドレスを仕立てる針子になりたいという夢を追って国を出てきたというシュネルは、ユイの加護縫いの腕を見て、呪いと戦うことと引き換えにユイの弟子にしてほしいと頼み込んでくるのだが――!?
シリーズ第二弾!
〈感想〉
シリーズ一作目を読んで続きが気になって気になって、意気揚々鼻歌気分で手に取った本作。
前作と違わず、主人公の皆を魅了するひらひらと野を舞う蝶ような可愛らしさは現在で、読み進めるほど主人公の可愛らしさに息をするのも忘れてしまいました。
今作では前作とは違って、なんと本の最後に短編が二篇収録されていました。
その中の一つ、人魚のルゥルゥーゥと旅人ココノツの恋を描いた短編がロマンチックで印象的。
ルゥルゥーゥは主人公に使えるメイドで、流れるような青い髪とほんわかした印象の優しいお姉さん。
ココノツは前の戦いで負傷し、メネスメトロの街にその傷を癒しにきた冒険者。
そんな二人が街の馬車乗り場の一角で出会った時のシーンがたまらないのですよ。
北極の氷山に真っ直ぐ差し込む陽の光のような、純粋な二人の恋心に、この短編を読んでいて胸がふつと熱くなりました。
『その瞬間、馬車乗り場はとても深い湖になった。
ドボンッと、落ちた感覚だった。
もちろん現実に湖になったりなんかしていない。
けれどココノツは確かに、深く深くどこかへと落ちた気がして、息ができなくなってしまったのだ。
「ココノツです。」
ココノツの声がルゥルゥーゥを貫いた。
耳が熱くなって、脳みそが洗われるような心地よさに陥った。
たぶん全人魚が、彼を見て彼の声を聞いて恋に落ちるし、人魚たちは頭を垂れて彼に選んでもらうのを待つことしかできない。
ルゥルゥーゥは、恋が敗れたかのように胸が苦しく涙が零れそうになる。
「あの、僕と結婚してくださいっ!」
「はいっ!よろこんでぇっ!」
全ての過程をすっ飛ばしためちゃくちゃなプロポーズに、ルゥルゥーゥは人魚にあるまじき素っ頓狂な声で返事を叫んだ』ー本文より引用(一部添削)
オチもいいですよね〜。
読んでいて思わずふふっと笑みが漏れてしまいました。
音を立てて燃える炎のように二人の恋が芽生えたと思ったら、頬を撫でる春風のようにさらりと物語を着地させる、作者の技量さに驚かされた今作です。