『マレサカチのたったひとつの贈物』 王城夕紀-読書日記
タイトル 『マレサカチのたったひとつの贈物』
著者 王城夕紀
世にも不思議な病「量子病」に冒され、世界中を跳躍し続ける娘の物語。
〈あらすじ〉
世にも不思議な病「量子病」に冒され、世界中を跳躍し続ける坂知(さかち)稀(まれ)。
大学の図書館から信州の老婆宅に跳んでしまう午後もあれば、中東で目覚める朝や、ウィーンでオペラに興じる夜もある。
これは神のサイコロ選びなのか、一瞬後の居場所すら予測できず、行き先も滞在期間も不明。
人生を“積み重ね"られない彼女が、世界に爪痕を残すためにとった行動とは――。
これからの「幸せ」の意味を問う、感動のSF長篇!
ーアマゾンより引用
〈ひとこと〉
「面白い本、知ってる?」と従姉妹の女の子に聞いたら、「んー、なら、これがオススメだよ」と彼女は僕に一冊の本を手渡してくれた。
従姉妹の彼女はニコニコとその本を勧めてくる。
手渡されたその本は、ページのところどころが擦り切れていて、表紙はヨレヨレだった。
手垢にまみれたという形容詞がぴったりの、使い古されたその本をそっと手に取る。
その本は口を開くことなく、持ち主が抱くその本への思いを、ただ僕の手の上で静かに語りかけてくるようだった。
それが『マレ・サカチのたったひとつの贈物』である。
それから半年、僕の積読本の蔵書に眠っていたのをその本を、久方ぶりに発掘。
彼女の花が咲いたような笑顔を思い出して、むしょーにこの本が読みたくなった。
主人公のヒロインはある場所からいきなり消えて、違う場所にいきなり現れる、粒子病を患っている。
彼女はいろんな場所で、いろんな人と出会う。
出会って、現れて、出会って、また別れて、そして消える。
それの繰り返し。
この本の一番の見どころはなんといっても、彼女が行く先々で出会う登場人物たちが、たびたび彼女に吐露する、含蓄のとんだセリフたちだろう。
例えば、孫娘が稀に見ぬ粒子病に侵され、いずことなく姿を消してしまった孫娘をもつ老人。
港町で漁師として海とともに生きてきたその老人は、海を眺めながら独りつぶやく。
「海があの子にとって小さすぎたのだ」と。
例えば、戦争で別れた夫を待ち続ける老婦人は彼女に言った。
「出会いは神様の意思。でも、出会いは人間の意思」と。
例えば彼女にスクランブルエッグを食べさせてくれた太ったレディ。
彼女は料理をしながらひとこと彼女に呟く。
「基本が一番大事なのさ。基本の料理に、すべてのコツがつまっている」と。
例えば「いつも、これで最後の別れになるんじゃないかと思ってしまうよ」と彼女を引き留めた青年。
彼に振り向きざま彼女がひとこと。
「いつだって、どの別れだって、みんなそうじゃない?」と。
人生とは、人と出会い、別れ、そまた出会い、そして時たま昔を思い出すことだ。
それの積み重ねが人生。
そういうことに気づかせてくれた本でした。
〈追伸〉
この本を授けてくれた従姉妹の女の子よ。
半年間、この本の存在を忘れていた。
長い間この本をほったらかして、ほんとゴメン!
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