タイトル『落窪物語』 田辺聖子-読書日記
タイトル『落窪物語』
作者 田辺聖子
〈あらすじ〉
貴族のお姫さまなのに意地悪い継母に育てられ、
召使い同然、粗末な身なりで一日中縫い物をさせられている、おちくぼ姫と青年貴公子のラブ・ストーリー。
千年も昔の日本で書かれた、王朝版シンデレラ物語。
ーアマゾンより引用
〈ひとこと〉
田辺聖子さんの物語は以前、『ジョゼと虎と魚たち』と『むかしあけぼの』を読んだことがある。
今回は同作者の『落窪物語』。
『ジョゼと虎と魚たち』と『むかしあけぼの』もそうなのだが、やっぱり田辺聖子さんは、恋する女性の心を描くのが得意な作家さんなのだなとあらためて思う。
この物語は平安時代の宮中を描く。
この時代の恋はまず手紙から始まる。
男はどこどこに素敵な女性がいると知ると、手紙に風流な和歌を添えて意中の女性を口説いた。
この時代の恋愛は男性が女性のもとに、密かに通うことが常識だ。
女性は家族以外に顔を見られてはいけなかった。
結婚して初めてお互いの素顔を知るというのはざらで、大抵は幕を隔ててこの時代の恋人たちは会話を楽しんだ。
女性の元には毎夜毎夜、男が人目をしのんで訪れた。
この時代の恋というものは、みんなが寝静まる真夜中に花開くものだった。
情熱的な夜を過ごした男は、朝露がけむる明け方に、後ろ髪を引かれる思いで女の元をあとにした。
女というと、自分のために足を運ぶ男のために、めいいっぱいの身支度を整えて、男たちを迎え入れた。
あの方が私の元に来られるの。
なら、めいいっぱいメイクアップしなくちゃ。
顔に白粉を塗って、髪には香をたきしめておかないと。
衣はもっと鮮やかなものがいいわね。
あ、そうそう、藤の一重を奥様にいただいたわね。
今日はそれを着ましょう。
会話の最中にお菓子なんかがあると、会話が進んでマッチベター♪
そして部屋の隅に蛾が身を飾って、色鮮やかな几帳(きちょう)で部屋を区切ればもう完璧!
さあ、あとは彼の方をお待ちするだけですわ。
みたいな感じで、うふふ、あはは、おほほしながら、弾む心持ちでこの時代の女性たちは、
愛する男のために身支度を整えたのである。
この物語を読んで、これから思い人に出会えるうきうき感や、殿方に対する淡い憧れ、恋によって人生が彩られていく期待、そんな恋をする女性たちの、春野を駆ける子鹿のように浮き足立つ恋心が、ありありと感じられて胸がときめいた。
やっぱり田辺聖子さんは、恋する女性たちのこういった、「男を待つ女性の気持ち」みたいな、男を想う女性の気持ちを描くのがとても上手いなあと思う。
これを現代風に置き換えるとこんな感じかな。
今日は彼氏とデートの日。
彼はきっと、ジーンズに白Tの上に青いシャツみたいな、今時の大学生のような爽やかコーデで、私の前に現れるだろう。
私も彼の服装に合わせたコーデにしなくちゃね。
確かクローゼットに白いワンピースがあったかしら。
あ、麦わら帽子なんかも合わせるといいわ。
え、もうこんな時間!
あー化粧しなくちゃ。
ドタバタドタバタ。
ファンデーションにちょこっと明るいチークをひとふり。
髪もセットしなくちゃ!
ヘアアイロンで髪をくるんとカールさせてっと。
うんうんいいじゃない。
このパーフェクトヘアスタイルが午後までもってくれますように。
幸せそうにはにかむ自分のほほ笑みにハッと驚く。
あぁ、やっぱり彼のことが好きなんだなあと、
そして鏡に映る笑顔な自分を見て彼女は想う。
彼氏のことを思いながら、鏡の前でるんるん気分でメイクアップする。
女性のひらひら飛ぶ蝶のようなワクワク感が彼女を包む。
きらめく笑顔のざんしを残したまま、愛しの彼氏に会うために、彼女はパタパタとせわしなく、家を飛び出したのであった。
たぶん現代風に書くとこんな感じじゃない?
やっぱり田辺聖子さんは、男を想う女性の甘酸っぱい恋心を描くのが、とても得意な作家さんだ。
深くそう思った今日この頃。
〈グループ〉