『眠れる美女』 川端康成-読書日記
〈あらすじ〉
「熟れすぎた果実の腐臭に似た芳香を放つデカダンス文学の逸品」と三島由紀夫が評した名作「眠れる美女」のほか、「片腕」「散りぬるを」を収録。
「眠れる美女」は1962年度の「毎日出版文化賞」を受賞している。
ーアマゾンより引用
〈収録〉
『眠れる美女』
『片腕』
『散りぬるを』
〈ひとこと〉
ライトなファンタジーや恋愛小説を読みがちな僕が、硬派な純文学を読むのは久しぶりなことである。
堀辰雄の作品を読んでから、今まで嫌厭してきた真面目ジャンル、もとい古典だとか純文学をもう少し読んでみたいと思うようになった。
つまるところ、読みやすい大衆文学ばかり読んでいたぼくが、硬派な純文学に興味を持つという稀有が起こったというわけだ。
そしてなにか面白そうな純文学の本はないかと探して、見つけ出したのがこの本。
なぜ僕がこの本を選んだのかというと、この本が川端康成のフェティシズムが爆発した作品だと聞いたからだ。
そして、この本を読んで一つわかったことがある。
それは川端康成という老人が想像の斜め上をいく、規格外の変態ジジイだったということだ。
表題作の『眠れる美女』は眠り薬でこんこんと眠る娘の横で、老人が熱い息をこぼしながら娘と一緒に一夜を共にする物語だったし、『片腕』は娘の右腕に魅せられた男が、娘から右腕を取り外し、その右腕を愛撫しながら一緒に眠るという物語だった。
ね?
川端康成ヘンタイワールド爆発でしょ?
まあ、だから僕はこの物語たちを読んで、驚きを隠せなかった。
川端康成といえば純文学の祖と言っても過言ではないくらい、この世に名作を数多く送り出してきた文豪である。
『雪国』とか『伊豆踊り子』とか。
はたして『眠れる美女』や『片腕』のような、したたるエロシズムに覆い尽くされた物語と、世に名高い『雪国』や『伊豆踊り子』などを書いた作者は
同一人物なのだろうか。
ぜーーーたいに違うと否定したいが、真実は無常にして残酷。
事実は事実なのである。
開いた口が塞がらないとはこのことかと思うくらいの衝撃。
実は『伊豆踊り子』なら以前、といっても二年以上前のことだが、読んだことがある。
青春の初恋をくすぐる、後味のよい爽やかな物語だった。
こんな醜怪で芳醇なエロシズムのかけらさえなかったと記憶している。
広く世に知られる文豪も、決して完璧という言葉を冠するのは難しいようだ。
どうしてこうなってしまったのだろう。
わからない。
わからないが、人間という生き物は10から1を引いたくらいの性格でいるのがちょうどいいのかもしれない。
光があれば影があるように、才能を昇華し世界に勇翔した傑物でさえ、ゾッとするような暗闇を抱えているものだ。
天は二物を与えない。
そんな言葉がふと頭によぎった今日この頃。
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