『よるのばけもの』 住野よる
タイトル『よるのばけもの』
著者 住野よる
〈あらすじ〉
夜になると僕は六つの足に八つの赤い目を持った真っ黒な化け物に変身する。
真夜中に人を驚かせるのもそろそろ飽き、忘れ物をとりに学校へ忍び込んだ化け物姿の僕は、教室で一人の少女と出会う。
彼女はクラスでいじめを受けている矢野さつきという少女だった。
彼女は化け物姿の僕に怯えることなく、笑顔で「また明日」と言って去っていく。
毎夜毎夜、彼女と顔を合わすたび、僕の心境は少しずつ変化していって…
〈ひとこと〉
僕は今年、某外食産業の会社に入社して、新入社員として店舗に配属された。
驚くことに僕の職場はアルバイトの6〜7割が外国人労働者である。
ほとんどがアジア人の出稼ぎ労働者。
この本を仕事の休憩時間中に読んでいる時、外国人アルバイトの男の子に話しかけられた。
店舗で働く外国人アルバイトの方は、みんながみんな日本語を話せるわけじゃない。
日本語を全く喋れない人もいるし、日本語は勉強中でカタコトなら喋れる人もいる。
ちなみに彼は後者。
ちょっとだけなら日本語を話せる外国人スタッフだ。
「今、あなたが読んでいる本、貸してくれますか?」
まさかの英語で尋ねられた。
ちょっと焦る。
「え、どうして?」
僕も英語で短く答える。
残念ながらとっさに英語の長文は思いつかなかった。
「日本語の勉強」
彼はキラキラと答える。
うーんと、彼の問いに僕は渋る。
日本語を勉強し始めて間もない彼には、この本は少し。
いや、かなりハードルが高い。
少しの間、逡巡したあげく、「君にはちょっとこの本は難しいと思うよ」っと英語で言って、この本を彼に手渡す。
この本を受け取った彼はパラパラとページをめくると「読めない」と苦笑い。
そしてパタンと本を閉じ、二人して笑った。
はははと笑顔で笑う彼だけど、たぶん悔しかったんだろうな。
彼の目は穏やかで、悔しそうで、そして冷ややかだった。
自分の力量をちゃんと受け止め、諦めることを知っている目だった。
ひとしきり笑った彼は、「ニホンゴ、ベンキョウスル」と日本語でそう言って、休憩室へと立ち去って行った。
そこは日本語なんだ。
でもちょっと嬉しい。
悔しい思いをしてなお、日本語を勉強しようと思ってくれて僕は嬉しい。
日本語のことを嫌いにならないでいてくれてとても嬉しい。
言語のことで多かれ少なかれ、彼は毎日ショックを受けているはずだ。
日本語の看板がわからないとか、立ち寄ったお店のメニューが読めないとか、いろいろ。
ちょっとちょっとのつまずきが、彼の自信を大きく奪うのがたやすく想像できる。
だから嬉しいのだ。
彼が日本語に対して前向きに接してくれていることに。
休憩室で他の外国人アルバイトさんと楽しそうに雑談する彼の足元を見てみると、彼の靴下には穴が空いていた。
何年もはき古されたような、ヨレヨレな靴下だった。
それを見て、嬉しいんだか悲しいんだか、熱いんだか冷たいんだか、尊敬しているんだか憐れんでいるのか、よくわからない複雑な感情が心の中でぐるぐるとした渦巻いた今日この頃。
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